【令和6年度 資料調査速報!vol.2】福岡市内寺社資料調査事業の資料紹介

2024年10月11日【令和6年度 資料調査速報!vol.2】福岡市内寺社資料調査事業の資料紹介

○はじめに
 福岡市文化財活用課では、文化庁から補助を受け、市内の寺社資料調査事業を実施しています。
 令和6年度の調査対象は福岡市東区に鎮座する香椎宮と志賀海神社の2社です。ご所蔵者の許可を得て、今回の調査で発見された資料を一部ご紹介します。

○香椎宮1625年御遠祭(ごえんさい)
 令和6年(2024)に創建1300年を迎えた香椎宮ですが、今回は明治26年(1893)4月1日から21日まで斎行された神功皇后1625年御遠祭について紹介します。

今回発見されたのは「香椎宮千六百弐十五年御遠祭執行記事」という史料です。
 この御遠祭は、香椎宮の御祭神の一柱である神功皇后が崩御して1625年を偲ぶ祭祀です。
 旧暦正月20日(3月8日)に、御鏡開かつ前年の氏子蓄積金出納報告等のため総代総集会が実施され、御遠祭の斎行が決定されました。

会議の出席者は宮司・葦津磯夫、禰宜・木下美重、主典・本郷豊、御田範廣、氏子総代19名(欠席4名)、香椎村長・泰省三でした。
 ちなみに、25年後の大正7年(1918)には、1650年御遠祭が斎行されました(「神功皇后一千六百五十年御遠祭略記 全」香椎宮所蔵)。

「尾仲邑記録」(糟屋郡篠栗町尾仲の記録)には、明和5年(1768)4月17日に「神功皇后一千五百年忌」として

「御法事」が執り行われたことが記されています(『福岡県史』近世史料編 年代記(一)、1990年)。

○御遠祭の収支予算
 御遠祭の予算は、氏子600戸から平均8銭ずつ寄付を集めた48円でしたが、後に追加で平均10銭ずつ寄付を集めて60円、都合108円としたようです。
   *物価(白米中級品)を指標に現代感覚でいえば、明治26年の1円は令和3年の約6,618円。
 明治26年の108円は現代の約714,744円。1円=100銭であるので、氏子一戸あたり寄付した18銭は現代の約1,191円にあたります。

御遠祭の収支をまとめると以下のとおりになります。
〈収入〉
金48円・・・①    氏子600戸あたり平均8銭寄付
金60円・・・②    氏子600戸あたり平均10銭寄付 追加
合計  金108円    
〈支出〉
金5円    4月1日より14日までの神饌料
金10円50銭    同15日より21日までの神饌料
金2円    献歌正式披露式諸入費
金2円    正式音楽奉納諸入費
金2円    4月15日より21日まで祭典奏楽費
金4円  神楽奉納諸入費
金1円50銭    祭典中蝋燭代
金3円    活花奉納会諸入費
計金30円・・・①´    
金18円・・・①´    諸奉納物の雑費
金60円・・・②´    にわか踊りならびに柳町手踊り費用ヵ
合計  金108円

○最終週の祭事
 期間の最後の週には多くの祭事が奉納されました。
 4月15日 神楽奉納、4月16日 生花奉納、4月17日 和歌奉納、4月18日 音楽奉納
 4月19日 俄踊奉納(4月21日に変更)、4月20日 柳町芸妓手踊奉納
 4月21日 歌舞伎奉納(4月16日・17日に変更)

○御遠祭の賑わい
 柳町芸妓手踊奉納には、箱崎村井上作助・博多柳町松濤屋の田村仁平・三芳屋の宅嶋徳十郎らが仲介して、26名の柳町樓主および35名の芸妓が参加しました。

4年後の明治30年には30軒の妓楼があり、芸妓は77名いたので、ほとんどの妓楼、半数近くの芸妓がこの御遠祭の奉納神事に参加したと考えられます。
 香椎駅において芸妓一行は、鼓・大鼓・三味線の道囃子をなし、香椎宮到着後、二ノ鳥居左側の田のなかの仮設舞台*で式三番叟・お光狂乱・花見奴などの演目を披露しました。

   *当時の境内図を末尾に掲載していますので、御遠祭の情景を想像していただければと思います。

福岡日日新聞(明治26年4月6日)では、「参詣の人引きも切らざるに今一層の賑はひを増すらん」、最終一週間の博多・香椎間の乗車賃を2割引き、17日から21日の午前と午後に臨時列車を発車することとなり、

「盛況は之を予想するに余りあるへし」と、その賑わいぶりを伝えています。

○おわりに
 香椎宮は本年に創建1300年、来年には10年に一度の勅祭(天皇の使者〈勅使〉が派遣されて斎行される祭祀)を迎えます。

節目の年に神社の歴史を一緒に考えてみませんか。

※資料の一般公開は行っておりません。ご理解とご協力をお願いいたします。
 福岡市内寺社資料調査事業の紹介パンフレットが令和6年3月にできました。
 末尾に関連ページのリンクを貼っておりますので、ぜひアクセスしてみてください。


≪主要参考資料≫
井上精三編『博多風俗史 遊里編』(積文館書店、1968年)
広渡正利『香椎宮史』(文献出版、1997年)
レファレンス協同データベース
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000341363

「官幣大社香椎宮境内全図 乙ノ図」明治26年(1893)2月(香椎宮所蔵 397号)

「官幣大社香椎宮境内全図 乙ノ図」明治26年(1893)2月(香椎宮所蔵 397号)