平成30(2018)年度の成果

平成30年度は木製品が9遺跡416点で、金属製品を中心とするその他の材質は12遺跡201点の保存処理をおこないました。以下、主要なものについて紹介します。

木製品

1 元岡・桑原遺跡群第42次調査出土資料

元岡・桑原遺跡群は西区元岡に所在します。平成7年度からの九州大学伊都キャンパス統合移転事業に伴い、発掘調査が行われました。第42次調査区は、庚寅銘大刀が出土した元岡G-6号墳から100メートル程南に位置します。弥生時代中期後半から後期の流路から農具や工具、祭祀具といった様々な木製品が出土しました(遺跡の詳細は一昨年度のページをご覧ください)。

写真1は基部と身部の境には明確な段で区切られており、形状は砧(きぬた)(布打ち,シワ伸ばし用具)に似ていますが、正確な用途は不明です。
写真2は板状で、琴など弦楽器の部材と考えられます。左端付近に小さいくびれがあり、その中央では両面から孔が貫通します。右端は突起状に整形されており、ここで楽器の弦を結っていたと考えられます。

写真1
写真1
写真2
写真2

2 今宿五郎江遺跡11次調査出土資料

西区今宿東一丁目に所在します。平成14年度からの伊都土地区画整理事業に伴う調査の一つで、弥生時代後期には大規模な環濠集落が形成されました。弥生時代後期のものとみられる環濠西側谷部を中心に多量の木製品が出土しています(詳細は昨年のページを参照ください)。

写真3は田下駄です。平面紡錘形の板状で,中心付近に2か所,両端付近に2か所の穿孔跡が確認できます。孔のうち端1ヵ所は破損しています。
写真4は糸を巻く道具の一部、紡錘車です。写真中央は中心の孔に軸が残っています。

写真3
写真3
写真4
写真4

写真5は不明製品です。低い円錘状のものが連結する形状で,器面には粗い削りがみとめられます。発掘調査報告書では紡錘車の製作途上品である可能性が示唆されています。
写真6は木偶(人形)です。こけし状に頭部と体部が分かれています。器面が磨滅しているため不明瞭ですが、頭部には線刻で顔が表現されていたことが確認できます。

写真5
写真5
 写真6
写真6

写真7は火起こしで使う火鑚臼です。火鑚溝付近には一単位3から5本程度の線彫りの列が鋸歯状に並ぶように施されています。火鑚による炭化の痕跡は見当たらず、未使用の状態です。
写真8は木鏃(木で作られた矢じり)です。基部と茎の間には明瞭な段で区切られています。形状は基部側が円柱状、先端は欠損しています。円錐状に尖っていたものと考えられます。

写真7
写真7
写真8
写真8

金属製品

1 大牟田古墳群出土馬具

大牟田古墳群の資料は、B支群の2号墳から出土した馬具類です。この古墳群は昭和44年に43基の古墳等が検出され、土器類の他、金属製品も多数出土しています。発掘調査報告書は未刊ですが、福岡大学が現在、報告に向けた整理、調査作業を行っており、それに関連して保存処理を行いました。
B-2号墳の馬具は、盗掘の影響により大半は破損しているものの、轡から鞍、鐙、各種の繋を留めていた辻金具や雲珠、帯先の金具など、一通りの部位が含まれています。観察や分析の結果、辻金具や雲珠、帯先金具は鉄地金銅板張、鞍の居木先に装着される磯縁金具は、鉄の縁金具に、頭部に銀を被せた鋲を用いていることが明らかとなりました。特に雲珠は破片から推定すると、直径が15.4センチ、高さ4センチほどになる非常に大型のものです。金、銀で加飾された豪壮な馬具を所有していたことが窺える結果となりました。また、磯縁金具には布や木質といった有機物の付着痕跡も確認されており、その使用状況についての手がかりが得られる資料となっています。

金属1-1-馬装復元-後
金属1-2-大牟田馬具
金属1-3-鞍模式図
金属1-4-大牟田鞍

2 銀装刀子の発見

和田部木原遺跡1次調査も未報告資料ですが、福岡市史編さん事業の中で、遺跡の報告が進められています。奈良時代と見られる土坑SK-07から出土した鉄器を中心に保存処理を行いました。ここでは、方頭の鉄鏃とともに刀子が出土しており、その一つには鉄とは異なる質感の部材が残存していました。蛍光X線による材質分析の結果、この部分からは銀が検出され、銀装の刀子であったことが明らかとなりました。残存状態はそれほど良好ではありませんが、遺跡や遺構の性格を知るうえでは重要な情報になるものと考えられます

発掘調査当時の様子
発掘調査当時の様子
発掘調査現場
発掘調査現場
銀装刀子外観
銀装刀子外観
銀装刀子の透過X線像
銀装刀子の透過X線像
銀装部分の拡大画像
銀装部分の拡大画像
銀装部分の拡大画像

3 馬具の加飾と有機物

東区蒲田のかけ塚山古墳からは、馬の鞍に取り付けられる装飾板である磯金具が、全部で3点出土しており、平成28年度に2点の保存処理が行われています。残りの1点は、鉄地金銅板張りと見られる板状部分の腐食が著しく、加飾のための金が箔状に剥離した状態となっていました。これをアクリル樹脂で本体に接着し、全体にも同じ樹脂を塗布しました。中央付近のやや大きな欠損はセメダインにマイクロバルーンを混ぜたもので補填して補強しています。
平成30年度の処理資料ではありませんが、鞍の後ろ側に装着されたと見られる2点には、改めて観察を行ったところ、繊維を中心とする有機物が遺存している状況が明らかとなっています。近年、馬具研究は有機物に着目した研究が進んでおり、かけ塚山古墳や、前述した大牟田古墳群の資料も、その研究材料として活用されることが期待されます。

金属3-1-かけ塚鞍