平成27(2015)年度の成果

平成27年度は木製品が14遺跡550点で、金属製品を中心とするその他の材質は26遺跡475点の保存処理をおこないました。以下、主要なものについて紹介します。

木製品

元岡・桑原遺跡群第42次調査出土資料

元岡・桑原遺跡群は、福岡市西部の糸島半島に所在する遺跡です。この遺跡は、九州大学がキャンパスをこの地に移転することに伴って行われた発掘調査によって、その姿が明らかになりました。
本格的な発掘調査は平成8年から始まり、平成27年までの20年間で、66次に及ぶ調査が行われました。現在は発掘調査は終了し、キャンパスの移転工事が続けられています。
調査の結果、縄文時代早期(約9,000年前)から近世まで、幅広い時代の遺構が検出されましたが、中でも、平成23年に発見された「庚寅年銘大刀」は大きな話題となりました。他にも多くの副葬品を有する群集墳(石ヶ元古墳群)や、古代の製鉄炉とそれに関連すると見られる祭祀具や木簡など、福岡市の歴史を知る上で重要な資料が数多く見つかっています。

元岡・桑原全体空撮

今回紹介するのは、数ある発掘調査の中の、第42次調査で出土した資料です。
元岡・桑原遺跡群の第42次調査は、遺跡群全体の南側、古今津湾と呼ばれる、かつては糸島半島の付け根に入り込んでいた海の奥の北側に位置します。
平成16年から約5年にわたって発掘調査が行われ、調査区の面積は、拡張された部分(52次調査)と合わせ約7,000平方メートルと、元岡・桑原遺跡群で行われた発掘調査の中でも広く、且つ、検出された弥生時代中期から古墳時代前期の流路から、土器を中心に大量の遺物が出土しました。その数はコンテナケースで約1万箱に及びます。
出土遺物からは、この遺跡が弥生時代の後半期(元前1世紀から紀元後3世紀)頃に、漁労や農耕が活発に行われるとともに、海外や国内各地の交流拠点であったことや、祭祀の場であったことがうかがえます。
元岡・桑原遺跡群第42次調査では、東西二つの自然流路(SD-01・02)から、多量の土器とともに多くの有機質遺物(木器類)が出土しました。出土した木器の数は500点近くに及びます。低地の遺跡ならではのこれらの出土品からは、日本が豊かな森林を背景に、木の文化によって生活が営まれていたことを、改めて教えられます。
多種多様な木器が出土しますが、最も数が多いのは農具、次いで杓子(しゃくし)や容器、建築部材の順となっています。他にも海に関わる道具や、祭祀に用いられたと見られる琴、北部九州の大型拠点集落で出土する組合せ式の机(案)などがあります。

42次調査全体空撮
木器出土状況2

1は農具です。全体の出土数で見ると鋤よりも鍬が多い様です。鍬には弥生時代後期に通有の又鍬の他、糸島地域の遺跡から多く出土する糸島型と呼ばれる方形の鍬があります。また、市内では那珂君休遺跡で全体が出土している鍬柄の組合せ部材も含まれます。
鋤は歯の部分、握り部を含めた柄の部分がある。特徴的な資料として、歯の周囲が厚く加工されているものが見られます。

2は容器の類です。これらも部分ごとの破片になっていますが、特に杓子類の数が多いことが分かります。柄の部分に溝を彫っているものなどがある他、全体に遺存状態が良好なものが多く、加工痕が明瞭に残る資料も見られます。

3は舟形木製品です。長さ36センチほどで一部欠損が見られますが、舟の形が明瞭に表されています。祭祀に用いたものか、あるいは船を造るときの模型(ひな形)という可能性もあります。

4はアカトリと呼ばれる道具です。船の底に溜まる水をアカと呼び、それを取り除くためのものです。今でも形を変えながら、小型船舶などで使われ続けています。

5は琴の上板です。ある。42次調査ではより残存率の高い同様の部材や、他にも琴の共鳴箱部材の可能性がある板材が出土しています。

6は杉と見られる柾目の板材です。表面には刃物による細かい切り傷が残り、材質や厚さなどから雀居遺跡4次調査で全体像が明らかとなった組合せ式案(机)の天板の一部と考えられるものです。42次調査では、今回の保存処理対象ではないものの、他にも案の部材やミニチュアの案なども出土しています。

農具
1
容器
2
舟形
3
アカトリ
4
琴
5
木製品写真
6

金属製品

発掘調査報告書刊行に伴う処理としては博多遺跡群(88次・199次・200次・201次)の遺物が351点と最も多く,全体の約4分の3を占めました。中世の銅銭や鉄釘がほとんどです。最近は透過エックス線撮影装置を用いて鮮明なデジタル画像を容易に得ることができるため,発掘調査報告書において従来の銅銭の拓本の代わりにエックス線画像を掲載する事例が増えつつあります。

嘉祐元寶
嘉祐元寶
元豊通寶
元豊通寶

数10年前に発掘されて保存処理しないまま保管されている遺物の処理も行っています。
昭和50年代に発掘された遺物の保存処理から2点紹介します。

新立表1号墳 兵庫鎖
  • 新立表(しんたておもて)1号墳
    新立表1号墳は福岡空港東側の月隈丘陵,現在の東平尾公園(通称:博多の森)にあった古墳で,1976年に発掘調査されました。鐙を吊り下げるための兵庫鎖1点を処理,復元しました。
  • 金武古墳群吉武S群9号墳(吉武6次調査)
    吉武S群9号墳は金銅製龍文素環頭大刀や環状鏡板付き轡などが出土した注目すべき古墳です。その周溝から出土した鉄製品が追加収蔵され,馬具のしおで金具1点に復元されました。
吉武 しおで金具エックス線
吉武 しおで金具