平成14(2002)年度の成果

今年度処理を行った資料は36遺跡460点です。この内、144点は国庫補助事業によるものです。処理法は資料の形態、材質、劣化度などを考慮し、PEG含浸法を中心に、糖アルコール法、真空凍結乾燥法の3つの処理法を使い分けています。主な成果品を紹介します。

木製品

柄杓(えしゃく)…比恵遺跡58次調査(弥生時代後期後半:3世紀)

とても複雑な形状をしているが、一本の木から削りだして作られたものです。杓部の先端下部には鰭(ひれ)状の部位が作られ、湾曲した柄と鰭状部を、容器の縁に掛けて落下を防ぐ機能があったと考えられます。当初は著しい破損と腐蝕が見られましたが、処理によって見事に甦りました。

成果柄杓
成果柄杓

馬の鞍…立花寺(りゅうげじ)B6次調査(古墳時代後期:6世紀)

通常、古墳から発見される馬具は木や革など有機物は腐って失われ、金属の部分しか見ることはできません。この鞍は集落を流れる河川から発見されており、この時期の木製の鞍としては市内でも2例目の珍しいものです。乗馬や馬を飼う文化は古墳時代の後期に朝鮮半島から伝わったものなので、この資料は、比較的最初の頃の馬具ということになります。

成果立花寺鞍
成果立花寺鞍

製鉄関連木製品…元岡遺跡群12次調査(奈良時代:8世紀)

谷を造成して造られた奈良時代の製鉄炉が多数発見された場所で出土しました。木製送風管は一方の端が焼け焦げており、炉の送風口に接して、製鉄炉に空気を送り込むのに、また、木製火掻き棒も、鉤型の先端は焼け焦げており、炉壁や鉄滓の掻き出しに使用されたものと考えられます。製鉄作業は通常、水分を嫌うため、有機物は残りにくい環境で行われます。このため製鉄に関する木製品が発見されることは稀で、当時の技術を知る上でも貴重な資料といえます。

成果鍛冶木製品
成果鍛冶木製品

紀年銘木簡…元岡遺跡群20次調査(奈良時代:8世紀)

谷を堰きとめて造られた古代の池状遺構から木簡37点が出土しています。この中には「大寶元年」(西暦701年)と「延暦四年」(西暦785年)の年号を記したものが2点含まれています。特に大寶元年は大宝律令が制定され、元号表記が開始される年のものであり全国初、最古の元号木簡ということになります。

成果記年木簡
成果記年木簡

金属製品

木製品以外では、30遺跡1,528点の作業を行っています。主な資料としては桑原石ヶ元古墳群、三苫古墳群B群など古墳時代後期(6世紀後半)の群集墳の出土品があります。特に桑原石ヶ元古墳群では金属器類の数の多さもさることながら、鍛冶工具や飾り大刀、馬具のセットなど市内でも珍しい資料が多数含まれています。石ヶ元古墳群の所在する糸島半島東部地域は、九州大学の移転予定地として発掘調査が進んでいますが、周辺で発見されている製鉄遺跡群や官衙遺跡などと併せて、当該地域における古墳時代末から古代の歴史を考える上で有効な資料になるものと期待されます。

古墳時代の装身具

三苫、石ヶ元両古墳群では、耳環(耳に付ける装飾品)やガラス玉といった装身具類が多数出土しており(三苫古墳群では耳環**点、ガラス玉105点、石ヶ元古墳群では耳環**点、ガラス玉678点)、その保存処理や分析調査でも多くの成果が得られています。これらの製品は調査の結果、様々な材質、製作技法が用いられていることが明らかになっており、これによって製品の歴史的変遷や流通のみならず、それらを基にした社会、政治状況の復元といった研究にも寄与すると考えられます。

耳環集合
耳環集合
三苫ガラス
三苫ガラス

特殊な製作技法の耳環

この耳環は金と銀の合金で作られています。当初、固まりを叩いて形を作っていると思われていたものが、奈良文化財研究所村上隆氏が中心となって行った調査で、厚さ20ミクロン程(現代のアルミ箔が15ミクロン)の薄板を数十枚重ねて本体を作り、仕上げに外側に再び薄板を数枚巻き付けるという特殊な製作技法が用いられていることが明らかになりました。

成果石ヶ元金耳環外観
成果石ヶ元金耳環外観
成果石ヶ元金耳環SEM像
成果石ヶ元金耳環SEM像

珍しいガラス玉

ガラス玉では三苫、石ヶ元両古墳群で重層ガラス玉が確認されています。これは内と外、二重構造のガラスの間に金属の箔(薄板)を挟み込んで、本来ガラスでは得られない輝きを醸し出したもので、全国的にも例が少なく有力古墳からの出土が指摘されているほか、西アジアから朝鮮半島を経由した系譜が考えられている資料でもあります。特に三苫古墳群では石室が著しく破壊されていたにもかかわらずこの様な資料が出土したことで、本来は、かなりの質と量の副葬品を有する有力者であったことが想起されます。

成果重層ガラス
成果重層ガラス

当センターでは平成12年度より、前年度に行った保存処理の成果を展示する企画展を「甦る出土遺物」と題して毎年夏に開催しています。またこれに関連した講座も展示期間中に行って、資料の解説をしています。

成果図録
成果図録

平成14年度の成果については平成15年7月19日(土)から10月26日(日)に展示を行い、関連講座を8月9日(土)に開催しました。その内容は小冊子(モノクロコピー)にまとめていますので、より詳しく知りたい方はお気軽にお問い合わせください。