平成16(2004)年度の成果

土器の保存処理(博多区雑餉隈(ざっしょのくま)15次:弥生時代初期)

保存処理の対象は、木製品や金属製品が中心ですが、時には腐蝕の著しい土器や石器もその対象になります。雑餉隈遺跡15次調査では現在注目されている弥生時代の初め頃のお墓が発見され、そこから副葬品の土器が出土しましたが、取り上げが困難なほど腐蝕していました。バラバラになった破片を合成樹脂で強化し、根気のいる接合作業を経て、貴重な土器が甦りました。

雑餉隈調査風景
雑餉隈調査風景
雑餉隈工程1
雑餉隈工程1
雑餉隈工程2
雑餉隈工程2
雑餉隈工程3
雑餉隈工程3
雑餉隈工程4
雑餉隈工程4
雑餉隈土器完成写真
雑餉隈土器完成写真

ガラス加工具の発見(博多区比恵87次:弥生時代)

変わった形の土器ですが、内部に溶けたガラスや焼き物の棒が張り付いています。高さ5cmほどの小さなものです。また透過X線で観察したところ底には孔が開いています。これは弥生時代のガラス製品を作るための道具です。鋳型に熔けたガラスを流し込む際にガラスを溜めたりスムーズに流すための「掛け堰(かけぜき)」と呼ばれるものと考えられます。蛍光X線による材質分析で鉛バリウムガラスという弥生時代によく見られる種類のガラスであることがわかりました。

比恵ガラス掛堰
比恵ガラス掛堰
ガラス掛け堰模式図
ガラス掛け堰模式図

古墳時代の鍛冶(かじ)道具や珍しい馬具(西区元岡25・37次:古墳時代後期)

九州大学が移転している元岡地区では多くの貴重な遺跡が発見されていますが、今年度は古墳時代後期の鍛冶道具や変わった馬具の保存処理を行いました。鍛冶道具は市内でも元岡地域や早良区クエゾノ古墳群など限られた場所でしか発見されない珍しい資料です。また馬具は馬の顔に取り付けるベルトを通す金具が左右で異なった形をしており、これも全国的に珍しいものです。どちらかが壊れて修理したと考えられています。

元岡鍛冶道具
元岡鍛冶道具
元岡37次馬具復元図2
元岡37次馬具復元図2

珍しい飾りのある馬具(西区浦江1号墳:古墳時代後期)

福岡市内二例目の装飾古墳として話題となった浦江1号墳でも、金で飾りを施した巨大な耳飾りや、変わった飾りを付けた馬具が出土しています。馬具はベルトの交差点に使う辻金具と呼ばれる部品ですが、ベルトを留める鋲の部分に貝と見られる円板をはめ込んでいます。

浦江1号墳耳環
浦江1号墳耳環
浦江5次特殊馬具-辻金具
浦江5次特殊馬具-辻金具

冑の飾りと市内最古級の馬具(西区7号墳:古墳時代中期)

JR筑肥線が最も海岸にせり出す西区長垂に所在する長垂山7号墳は、後世の破壊で墳丘や石室はほとんど残っていませんでしたが、そこから非常に多くのバラバラになった鉄片が出土。これを細かく調べたところ全国的にも出土例の限られる、冑の飾り「三尾鉄(みおがね・さんびてつ)」や、市内最古級の馬具などが含まれていることが明らかになりました。
特に三尾鉄は電子顕微鏡などによる調査の結果、飾りを取り付ける枝の部分に鳥の羽の痕跡が残っていることが判明。三尾鉄に残る鳥の羽を科学的に調査した初めての成果となりました。

長垂山7号墳
長垂山7号墳

市外の成果

当センターの機器利用規定に基づいて行われた市外出土品の調査でも貴重な発見がありました。

変わった装飾をもつ刀(福津市勝浦高堀遺跡:古墳時代中期)

栓抜きのような形ですが、古墳時代の鉄製素環頭大刀と呼ばれる刀の飾りです。単なる鉄製品と思われていましたが、透過X線蛍光X線電子顕微鏡による調査で、鉄に錫を巻いた特殊な装飾を施していることが分かりました。

福津環頭図版
福津環頭図版

鏡に残るハエのさなぎ蛹八女(やめ)市鶴見山古墳:古墳時代後期)

鶴見山古墳は筑紫君磐井(ちくしのきみいわい)の墓と見られる岩戸山古墳と同じ八女古墳群に含まれる前方後円墳です。石室は荒らされていましたが、青銅鏡の破片が出土し、表面を実体顕微鏡で細かく観察したところ、布や顔料とともに人の髪の毛と見られる痕跡や、ハエの蛹の殻が残ったものなどが付着していることが分かりました。特にハエの蛹は、地位の高い人が亡くなったときにすぐに墓に葬らずしばらく遺体を安置して死をいたむ「殯(もがり)」と呼ばれる行為に関係する痕跡と見る研究があります。「殯」は古事記や日本書紀など文献からの研究が中心でしたが、考古資料からも「殯」が推定できる可能性がある資料として注目されます。

鶴見山鏡
鶴見山鏡
鶴見山鏡付着物1
鶴見山鏡付着物1
鶴見山鏡付着物2
鶴見山鏡付着物2
鶴見山鏡付着物3
鶴見山鏡付着物3