【令和 7 年度 資料調査速報!vol.2】福岡市内寺社資料調査事業の資料紹介 【2025年10月13日】
【2025年10月13日】
【令和7年度 資料調査速報!vol.2】福岡市内寺社資料調査事業の資料紹介記事
福岡市文化財活用課では、文化庁から補助を受け、市内の寺社資料調査事業を実施しています。
vol.2は、志賀海神社の資料について速報で紹介します。
好評?につき、今回もナゾ解き形式でご紹介しているPDFをぜひチェックしてください。
「お殿様が志賀海神社にやってきた!」(PDFリンク)
「ナゾ解きなぞ無用!!」という方は、以下の記事をご一読ください。
(1)「御殿様御社参覚書」(おとのさま ごしゃさん おぼえがき)の概要
年代:延宝9年(1681)*4月9日 ※寛延2年(1749)2月に書き直す
*「万暦家内年鑑」(大谷光男『金印ものがたり』図書コンサルタント協会、1979年所収)の「同(延宝)九年四月九日光之公従長崎御帰帆ノ節御社参」による。
内容:①3代藩主黒田光之(みつゆき)が見た志賀海神社の神宝
②黒田光之が尋ねた志賀海神社の社人(しゃにん)*や祈祷体制
*日々の社務を行い神職を補助する人。
(2)3代藩主黒田光之が見た神宝
「太閤様 御朱印」→豊臣秀吉 朱印状(市指定有形文化財)
「如水様 御書貮(二)通」→黒田如水 御書2通
「大内義隆公様寄進太刀」→大内義隆寄進の太刀
「同(大内義隆公)御台様御寄進香炉」→大内義隆正室寄進の香炉
「志賀宮御縁起三幅」→志賀海神社縁起(市指定有形文化財)
「鹿ノ角」など
藩主の光之が見た「太閤様 御朱印」(1595年に豊臣秀吉が50石を社領寄進)や「志賀宮御縁起三幅」は、今も志賀海神社に伝わっていて、福岡市の指定有形文化財になっています。
(3)3代藩主黒田光之が尋ねた内容
光之:(何年、神社に仕えているのか?)※破損のため質問は推定。
(「 ]司年何ツ[ ]」)
宮司:38歳です。神社に奉職して18年になります。
(「私年三十八、入社職十八年相勤申候」)
光之:社人は全員で何人いるのか?
(「惣て社人何人居申候と御尋被為成」)
宮司:15人おります。
(「拾五人居申候」)
光之:この15人は何を勤めるのか?
(「右十五人ハ何事ヲ相勤申候と御尋被為成候」)
宮司:1日・15日・28日の大祈祷日に神前に御供物(ごくもつ)を供えます。
(「朔日・十五日・廿八日大祈祷日神前ニ御供ヲ備」)
光之:祈祷は(何人)で行うのか?
(「御祈祷相勤候[ ](何ヵ)人ニて相勤申か」)
宮司:大祈祷日には在社の者のほかに、3か村(勝馬・弘・志賀島)に3人の僧侶がいるので、合計7人(宮司1人、社人頭3人、僧侶3人)で行います。
(「大祈祷日ニは在社之外ニ三ヶ村ニ坊主三人居申候…以上七人ニて御祈祷相勤申候」)
光之:異形な鹿の角はどこの国から来たものか?
(「異体成ル鹿ノ角何国より参候角か」)
宮司:昔、タイ王国から寄進されたものと伝わっています。
(「昔日、しゃむろ国より指渡シ寄進仕候由申伝候」)
志賀海神社の社人組織は、志賀の集落の氏子男子が生まれたときから御座帳(おざちょう)と呼ばれる社人名簿に、誰それの長男、次男で、いくつかある社人の役のうち一つを記載され、将来、その役が担う社務や祭礼を務めるといったものでした。近年までその制度は残っていました。特徴的な組織であったと指摘されていますが*、当時の藩主も気になったのかもしれません。
この問答によれば、社人15人は、大祈祷日の際、御供物を供え、大祈祷は宮司・社人頭3人・3か村の僧侶3人の計7人で執行しました。大祈祷日は朔日、15日、(25日?)、28日でした。
*松村利規「志賀島――『つんなう』人々」(『新修 福岡市史』民俗編二、福岡市、2015年)
また、タイ王国から寄進されたという異形の鹿の角が資料中に出てきましたが、タイといえば博多遺跡群において、14世紀後半から17世紀前半にかけてタイ産陶磁器が出土しています。博多商人たちが琉球から入手した可能性が指摘されています(東アジアと博多の直接交渉の可能性もあります)*。
*松尾奈緒子「タイ陶磁器展」(福岡市博物館企画展示アーカイブズNo.602、2023年)
(4)まとめ
大正時代、志賀海神社は社格昇格のため、東京に関係資料を送付していました。しかし、大正12年(1923)、関東大震災が起こり、その関係資料は滅失してしまいました(3年後には官幣小社へ昇格しました)。
そのようななか、今回、資料調査事業において、主に江戸時代から近現代の貴重な資料が数千点、見つかってきています。ひとつひとつ、丁寧に整理・調査していくことで、これまでわからなかった重要な地域の歴史や文化が明らかになるかもしれません。
※資料の一般公開は行っておりません。ご理解をお願いいたします。
福岡市内寺社資料調査事業の紹介パンフレットが令和6年3月にできました。
末尾に関連ページのリンクを貼っておりますので、ぜひアクセスしてみてください。
【主な参考文献・資料】
松尾奈緒子「タイ陶磁器展」(福岡市博物館企画展示アーカイブズNo.602、2023年)
松村利規「志賀島――『つんなう』人々」(『新修 福岡市史』民俗編二、福岡市、2015年)
水野哲雄「志賀海神社」(『アクロス福岡文化誌 福岡県の神社』海鳥社、2012年)
宮田太樹編『博多のみほとけ』(特別展「博多のみほとけ」実行委員会、2024年)
「万暦家内年鑑」(大谷光男『金印ものがたり』西日本図書コンサルタント協会、1979年)
志賀海神社資料「□(御)殿様御社参覚書」